前ページからの続きです。
3. 入試の比較
最後に中学入試の比較です。
偏差値の推移
入手できている2009年以降の四谷大塚50偏差値を使います。ちなみに50偏差値表を見るのは、過去記事(50%偏差値表って何に使うの?)で書きましたが、50%偏差値が合否ラインになっていて難易度をより正しく表していると考えているためです。
線が多くて分かりづらいかもしれませんが、よくよく眺めているとこんな流れが見えます(個人の印象です)。
- 2010年代前半は麻布・栄光・駒東の3校で上位グループを形成していたが、2016年頃から駒東がじわじわ下げ、この中での下位グループに飲み込まれるかたちになり現在に続いている。
- かつては1ランク上とされた武蔵は2000年代から低迷していたが、駒東が下げはじめたころからじわじわと上昇し、今は5校でほぼ団子状態になっている。
- 2000年代はひとつ格下に見えていた海城①は2012年(高校入試撤退)から上昇し、その後はやや上下動しながら5校で一段を作っている。
- 早稲田①は大学入試改革の混迷で附属校人気が高まった2016〜19年あたりに上昇し、その後は一旦落ち着いたあとまた上昇傾向にある。
個人的にはどこも素晴らしい学校だと思っているのでどこがどうとかいう批評をするつもりはありませんが、ひとつだけ言えることは、10年や20年単位で見れば色んな流れが変わって人気校は変わっている可能性があり、10年後にどうなっているかなど誰にもわからないので、あまり周りの風評に流されない方がいいんじゃないかということですかね。少なくとも自分の子供がそこで6年間を過ごすということが一番大事ではあるので、子供のタイプを見て、受験からの6年間、その学校でどんな経験をすることができるのか、という視点で選ぶべきなんじゃないかなあと思います。
入試問題のポイント
続いて入試問題の違いについてです。これは四谷大塚中学案内に掲載されている情報を参照します。基本的には前年度の入試問題分析ですが、学校の傾向としてポイントだと思われるところにアンダーラインを引いておきます。
算数 | 国語 | 理科 | 社会 | |
---|---|---|---|---|
麻布 | 大問数は6題で、ほぼ例年通りの問題量。今 年のように解きやすい問題がそろう場合もあ るが、麻布の算数が思考力重視であるのは変 わらないだろう。普段の学習では、問題全体 の流れや出題側の意図を意識することと、 「正解」で満足するのではなく、「どのよう に解くか」「何故そうなるのか」にこだわっ て欲しい。もちろん、基礎基本の徹底、計算 力の強化などの積み重ねの学習が前提であり、 これらを踏まえた上で思考力の強化を目指し て欲しい。 | 物語文1題構成。漢字の書き取りと記号選択 以外はすべて記述問題(10題)で出題形式は 例年通りであった。場面ごとに登場人物の心 情や考えを丁寧に読み取り、文章を俯瞰して、 登場人物(主人公)の「変化」から作品テー マを大きくつかむ力が求められる。自分の考 えを指定された分量で表現する練習、全体の 流れを意識して読む練習を積んでおくことが 不可欠である。 | 記号などの選択式問題が昨年の45問から22問 と約半分に減少した。長めの文章から情報を 読み取り、考えを進めていく形式は例年と変 わらず、所要時間や難易度について大きな変 化はなかったと考えられる。本校の問題では、 基礎的な知識をベースに与えられた文を読み 解き、身近な事象や日ごろの学習と関連付け て考えられる力が求められる。持っている知 識を発展させて、物事を様々な角度から考え られるような学習をしておきたい。 | あるテーマに基づいた長文を読み、記述の解 答を求める問が例年多く出題されている。記 述の出題数は5年連続で10問程度、最も長い 字数は80字~100字。グラフ、表、史料(古 い新聞記事)などを切り口にした出題も例年 通り出題された。普段何気なく触れている文 物や事象にさまざまな背景や歴史がある。そ のことを入試問題を通じて受験生に訴えてい る。知識を身につけた後、なぜそのようにな るか、理由を考察する習慣をつけ、ものごと を多面的にとらえる姿勢を日頃から培ってお きたい。 |
栄光学園 | 毎年高度な思考力を要する問題が中心で、今 年は大問4題がどれも相当な思考力と作業( 検証)量を要求される難問となった。いずれ も良く練られた奥深い問題なのだが、「試験 時間60分」では到底釣り合わず、受験生は例 年以上に「一問に深入りせずにできそうな問 題を確実に拾っていく」ことが求められた。 「純粋な考える力・思慮深さ」が必要なので、 受験算数という枠組みにとらわれない、試行 錯誤しながら解決していく姿勢を学んで欲し い。 | 論説文と物語文、漢字書き取り10問の3題構 成。昨年は文章が長くなり時間的に厳しかっ たが、今年は緩和。問の数も減った。年に よって、文章量、問の数、難度がまちまちな ので、時間配分に注意したい。記述問題は、 字数指定のない自由記述がほとんど。そう難 しくはないが、合格点をとるには、広範囲に わたる内容から要点だけを拾い上げて簡潔に まとめる技術をみがく必要がある。 | 1つのテーマについていくつかの実験・観察 を行い、その結果を深く掘り下げて考察を進 めていく独特なスタイル。容易に規則性を見 いだすことができるものにはなっておらず、 答えが割り切れない値になることも多い。記 述やグラフの作図が多く、単純に知識を問う 設問は少ない。データ処理能力・論理的思考 力・表現力が試され、時間のかかる形式で、 小学生にとっては極めて難度の高い問題であ る。 | 例年通り、あるテーマに基づいた地理・歴史 中心の融合問題が出題。記述問題の割合が高 く、今年は8問出題された。写真や統計資料 を正しく分析し、すばやく処理する力を日頃 から養っておきたい。計算をともなう問題が 例年出題されている。作図の問題が出題され ることもあるので、こうした問題形式に慣れ ておきたい。世の中のできごとに幅広く興味 を持ったうえで、データの読みとりを行う分 析力や分析に基づく発想力、論理立てて文章 にまとめる記述力が求められている。 |
浅野 | 計算1問、一行問題4問程度、大問4題の問 題構成。全体的には標準レベルの問題だが、 後半の大問にはやや難度が高い問題が出題さ れることもある。基礎をしっかりと固めた上 で、応用力・思考力を鍛えておきたい。一部 で記述を求める問題も出題される。 | やや長めの物語文と説明文の読解2題と読み 書き10問(文脈からも分かりにくい熟語が2、 3ある)の問題構成。設問は易しかったが、 将棋に全く不案内の受験生は将棋指しや駒彫 りの世界の話に戸惑ったろう。一方、受験生 には馴染みの話題の説明文は、主に言いかえ や内容合致を通して筆者の考えを問われた。 | 例年通り大問4題で4分野から出題。生物分 野は身近な動植物、化学分野は物質の性質と 気体の発生、地学分野は地層、物理分野はて このつり合いが出題された。身近な動植物で は、植物の蒸散、メダカの孵化と成長、消化 とテーマは多岐にわたる。計算問題も数題あ るなど、しっかりとした準備は必須。 | 大問2題構成。近年、最後の小問は長文の記 述問題の出題が続いている。今年は100字以 内の問いが1問のみ出題された。本校の入試 はグラフや統計資料の解析などに難易度の高 い問題が多い。出題の大半を占める記号選択 で確実に得点することが必要。今年も昨年に 続いて用語記述が出題されなかった。 |
駒場東邦 | 昨年から「条件整理(数の性質/規則性/場合 の数)」を重視した問題構成となったが、今 年はさらに各問題が大幅に難化した。来年以 降も今年のような難度が続くとは考えられな いが、「条件整理・場合の数」のような「そ の場で試行錯誤して解法を見つける能力」を 重視する傾向は変わらないだろう。従来の駒 場東邦対策に加え「条件整理・場合の数」へ の対応力を鍛えていきたい。 | 物語文1題構成。昨年同様15ページの長文だ が、会話文の多い現代作品であり平易な文体 なので読みにくくはなかった。記述問題は5 題で記述総字数は昨年の約320字から約350 字と少し増えたが、記述対策をしてきた受験 生には時間的な問題はなかったと思う。会話 などの文脈をたどり、心情の変化をつかみ、 その心情を設問の意図に合わせて的確に表現 する練習が有効。漢字練習と語彙の拡充も欠 かさないようにしたい。 | 小問集合、4分野の出題の大設問5題の構成。 学校発表の受験者平均・合格者平均(80点満 点)は、本年は54.7点・58.5点、昨年は 50.5点・54.8点となっている。受験者平均 と合格者平均の差はあまり大きくないため、 取りこぼしをしないように細心の注意をはら って答案作成を行いたい。 | あるテーマの文章を読み、地理・歴史・政治 国際に関して総合的に問う出題が続いている。 複数の資料・史料をさまざまな角度から分析 し、判断して導き出す解答を求めている。記 述問題は例年6、7問で、今年は6問出題さ れた。記号選択や用語記述の問題は、大半が 『予習シリーズ』の学習で充分対応できるも のである。普段から知識を習得して終わりに するのではなく、さまざまな資料に触れ、数 字の変化やその理由を考察することを意識し た学習が必要。 |
武蔵 | 今年も数の性質、平面図形、条件整理といっ た本校の頻出領域からの出題。理由説明の問 題が出題されることもあり、式や考え方の記 述は変わらず必要なので、条件を読み取り順 序立てて考えていく力、的確に処理する力、 解き方や考え方を表現する力を養っておきた い。 | 今年も説明文(6000字近い)1題と、漢字の 読み書きは8問だった。主に言いかえ内容や 比喩の意味の説明を求める形で筆者の考えを すべて記述で解答するのは例年通りで、設問 数は6問、字数指定はないものの、答えの欄 のサイズから20~70字ぐらいで書くことにな ろう。 | 大問3題で小問集合、生物分野は成長の段階 における特徴、実物を与えて観察する問で あった。指示に従って観察し、変化させてそ の過程を図示するなど特徴のある入試問題に なっている。単なる知識だけでなく、つなが りや関係性を考慮し、わかりやすく表現する 力を必要とされる。 | 例年通り1つのテーマにもとづいて出題であ る。今年は「学校」。明治時代の教育制度が 富国強兵とどのようにかかわったのかなどに ついて記述させている。資料から得られる情 報を整理・分析し、論理的な文章として表現 できる力を身につけることが合格点をとる前 提条件となっている。 |
海城 | 計算と一行問題が合わせて5問程度、大問5 題の問題構成。幅広い領域から、標準~応用 レベルの問題が中心に出題され、特に図形分 野から難度の高い問題が出題されている。各 領域で深い理解が求められ、受験生の力の差 がはっきりと出る試験といえる。基本を固め た上で、思考力、応用力を鍛えておこう。 | 物語文と論説風随筆(簡単な書き取り5問を 含む)という2題構成で、解答形式それぞれ に1問ずつある記述(60~80字)のほかはす べて記号選択と抜き出しだった。物語文は人 物の様子や言動の心情と理由にほか表現の特 徴を、随筆文は言いかえと要点を通して筆者 の思いや考えとその理由を問われた。 | 大問4題、生物分野はマグロを題材に食物連 鎖について。地学分野は地理的な要因も含め て気温地温の変化について。化学分野は酸素 の発生で時間とともに変化する濃度まで考え る問い。物理分野は作図を含む光の進み方の 問い。いずれも単純な問いは少なく、順に考 えを進める発展問題となっている。 | 資料とグラフを多用した特有の記述問題の対 策は、日ごろからさまざまなことに関心を持 ち、資料をきちんと読み解き、自分の言葉で まとめる訓練を重ねること。他の問いについ ては例年通り、基礎基本で取り組みやすかっ たといえる。そのため、ここで取りこぼさな いようにするのは必須である。 |
早稲田 | 一行問題6問、大問3題の問題構成。一行問 題も含め基本問題は少なく、標準レベル以上 の問題が並ぶ。特に平面図形では、軌跡の問 題や折り目に関する問題が頻出。基本を徹底 した上で、高い処理能力、答えを導くのに必 要となる条件を見抜く力が高いレベルで求め られる。過去問演習をしっかり行いたい。 | 例年通り物語文・解説文の読解2題で、20 ~30字を要する記述がそれぞれに1問ずつあ るほかは、記号選択か抜き出しの解答形式で ある。物語文では人物の言動の理由や文脈( 脱文復元)を、論説文でも文脈の読み取り中 心に筆者の考えを問われた。配当外の書き取 り対策は普段から読書に勝るものはない。 | 大問4題で、生物分野はコロナウイルスを テーマに人体まで考える問、地学分野は地層 を地質図から考える問、化学分野は実験操作 を含む中和について、物理分野は音と光の進 み方、作図が1問あるが選択、計算が多く、 発展的な内容まで続くため、正確に解く力を 要求される。 | 問題数が35問程度で、記号選択と用語記述が 中心。複数の分野にまたがる融合問題が出題 されることもある。日本と関わりの深い国々 をテーマにした出題が多い。時差の問題と統 計から都道府県を判別させる問題は頻出。基 礎基本を問う問いが中心だが、難易度が高い 小問も散見される。 |
この中でよく思考力・記述型(サピックスでいうBタイプ)と言われるのが栄光・麻布・武蔵ですね。
麻布・武蔵は算数の途中式も書く必要があったり、国語は物語文1題が駒場東邦・麻布(武蔵の2022年は説明文1題)など、学校ごとに内容だけでなく出題形式から特徴があるのでそれぞれの対策が必要でしょう。
個人的には少なくともこのレベル帯からは何らかの志望校対策が必要なんじゃないかと思っています。
4. まとめ
以上、前回の最上位校に引き続き、男子二番手校グループについてまとめました。何かの気付きになったり判断材料になるものが少しでもあればと思います。
それぞれの学校ごとにまとめたこちらもぜひご覧ください。
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