日本の国際競争力の低下に伴って、かどうかはわかりませんが、高校卒業時に海外の大学へ進学する学生が近年増えていてるようです。いわゆる国際系と言われる中高一貫校の注目も高まっています。
このサイトでも2年ほど追いかけていますが、今年の大学合格実績も出揃ってきたので、2024年版の海外大学合格実績を集計しました。過去5年分のデータを以下の切り口で集計しています。
- 関東圏の中高一貫校が対象
- 2020〜2024年の5年間の累計合格者数
- 世界大学ランキング(後述)の大学への合格者数でランキング
集計対象
ひと口に海外大学といっても、ハーバード大のような誰もが知る名門大学から語学学校レベルまで幅広いため、それなりの難易度のある大学にどのくらい合格しているか、という観点で集計します。具体的には次の通りです。
【リサーチ系】
THE世界大学ランキング100位以内の大学(東大など日本の大学は除く)
【リベラルアーツ系】
米国National Liberal Arts Colleges Rankings30位以内、ミネルバ大学(Minerva University)
簡単に解説すると、ハーバードやMITなど一般的に有名な大学はリサーチ系や総合大学と呼ばれていて、学部に分かれ研究活動を行う大学がこれに当たり、世界大学ランキングはこれら総合大学から構成されています。それに対し、入学後2年間に幅広い教養を学んだあとに専攻を決める形式の小規模な大学がアメリカにはあり、それがリベラルアーツカレッジと呼ばれているようです。海外大学、特にアメリカの大学を目指す場合にはここに大きな分岐点があるようで、THE世界大学ランキングに挙げられる大学だけが上位の進学先とは限らないので、リベラルアーツ系の上位大学も集計対象としました。さらに超難関として注目を集めているミネルバ大学もここへ入れています。
なお大学ランキングは毎年変動するので、基本的にその年の合格実績はその年のランキングを使って集計しています。(2022年までの合格実績は2022年のランキングを使用)
これらを便宜上、名門大学と呼び、そこへの合格者数の多い学校を上位から並べます。
ちなみに各高校の合格実績では、進学先として具体的な大学名が記載されていなかったり、複数年度をまとめて学校名だけ挙げている場合もあり、その場合はランキング集計から漏れることになっているなど、完全なデータではない点はご了承ください。
また、合格者数=進学者数ではなく、海外大学の場合は1人が5〜10校合格していることもざらなので、その辺りは割り引いて見ていただければと思います。
海外名門大学合格者の多い中高一貫校
広尾学園
442名(総合格者数832名)
2024年の合格大学:
【リサーチ系】Stanford / Hopkins / Penn / Columbia / UCLA / UTronto(ca)[16] / UCL(uk)[2] / UMich[2] / CMU[3] / UW / NYU / Northwestern[2] / Edin(uk) / 南洋理工(sg) / UCSD[5] / Georgia Tech[2] / Kings(uk)[3] / UBC(ca)[4] / UIUC[8] / KU Leuven(be)[8] / TU Delft(nl)[2] / McGill(ca)[6] / Manchester(uk)[5] / UT Austin / UC Davis[2] / Amsterdam(nl)[2] / Brown / UCSD / Leiden(nl)[2] / Boston / UMN / Purdue[6] / Glasgow(uk)[3] / UC Irvine / Vanderbilt[2]
【リベラルアーツ系】Williams / Pomona / Middlebury[2] / Grinnel[3] / Wesleyan
2007年に広尾学園になって偏差値も急上昇、学校改革の成功例として語られることの多い広尾学園です。しばらくは偏差値の割に進学実績が云々と叩かれ気味でしたが、最近は東大をはじめ進学実績を大きく伸ばしてきました。
海外大学は2021年に200人越えの数字を叩き出して以来、毎年3ケタの合格者数を出しています。今年は名門校だけで100以上となり、大学名で見ても超一流どころが並んでいる感じです。とりあえず合格者数で見ればダントツのトップと思われます。
茗溪学園
135名(総合格者数327名)
2024年の合格大学:
【リサーチ系】Stanford / ICL(uk) / Columbia / UCLA / UTronto(ca)[8] / UCL(uk)[2] / Duke / Northwestern / Edin(uk) / UCSD / Melbourne(au)[5] / Kings(uk) / UBC(ca) / UIUC / TU Delft(nl) / Manchester(uk) / Monash(au) / UQ(au)[6] / Bristol(uk) / UNSW(au)[3] / Vanderbilt
【リベラルアーツ系】Williams / Grinnell[2]
茨城県つくば市にあり、学園都市の研究者師弟の教育を目的に筑波大学の同窓会「茗溪会」によって作られた学校です。2017年にIB(国際バカロレア)コースを設置し、その一期生が卒業した2020年から海外大学への合格者を急速に伸ばしています。長期・中期・短期の海外留学制度や、海外からの留学生受け入れなど、国際教育に積極的なようです。
東京学芸大学附属国際中教
105名(総合格者数193名)
2024年の合格大学:
【リサーチ系】UChicago / Penn[2] / Cornell / UW / UCSD[2] / UIUC[2] / Manchester(uk) / UT Austin / UC Davis / Amsterdam(nl) / Brown / Leiden(nl) / UC Irvine
【リベラルアーツ系】Pomona / Swarthmore / Carleton[2] / CMC / Grinnell[4] / Barnard
2007年に東京学芸大学附属大泉中・高が統合してできた学校で、2010年にIB認定、2015年にDP認定校になり、IB一貫教育を実践する初の国公立学校となりました(Wikipediaより)。国立校での国際教育を実践するモデル校的な位置付けのようです。卒業生が130名弱という少人数なので、割合ではかなり多いと言えるでしょう。
三田国際
101名(総合格者数289名)
*学校サイトでの公開情報が、年度ごとではなく過去4年分の合算となっているのでその数字を使用しています。
広尾学園を改革した校長先生が移って、広尾学園を追うように女子校を共学化し国際教育で人気・実績を上げてきている学校です。ここ2・3年で海外大学への実績を伸ばしています。
学校サイトでは過去4年分合算のデータしかないので、手元の集計では前年度との差分で単年度を計算したりしていますが、とりあえずここでは学校サイトでの数字そのままを挙げておきます。
渋谷教育学園渋谷
93名(総合格者数143名)
2024年の合格大学:
【リサーチ系】Cambridge(uk)[2] / UC Berkeley / UCLA / Cornell / UW / UTronto(ca) / UCL(uk) / Northwestern / UCSD / UBC(ca)
【リベラルアーツ系】Amherst / Carleton / Middlebury / Grinnell[2] / Smith / Haverford
国際系といわれる先駆け的な渋谷教育学園で、もはや中学受験では説明するまでもない学校でしょう。ここ数年東大合格者も増やしてきて、やや出遅れていた男子偏差値も上がり、渋幕に並ぶかたちで完全に最難関の一角として定着したイメージです。2024年の海外大実績は若干減らした感じで、学芸大国際と逆転する格好となりました。
渋谷教育学園幕張
77名(総合格者数173名)
2024年の合格大学:
【リサーチ系】UChicago[2] / Penn / UCLA[2] / UW[2] / UCSD/ UIUC / UC Davis / WashU / UCSB[2] / UC Irvine / Vanderbilt
【リベラルアーツ系】Pomona / Swarthmore / Middlebury / Grinnell / Wesleyan / Hamilton / Bates / Colby
海外大実績では渋渋に抜かれた感がありますが、元は渋幕の成功があって今の渋谷教育学園があるというイメージかと思います。2022〜23年と実績が下降していましたが、2024年は全体も名門校も人数を増やし、復活の印象が大きくなっています。
開成
76名(総合格者数91名)
2024年の合格大学:
【リサーチ系】Columbia / UTronto(ca) / UCSD / Melbourne(au)
【リベラルアーツ系】
開成の卒業生が東大でなく海外大を選ぶようなった、ということで近年話題にもなり、海外大に目が向くキッカケにもなっていたと思います。ただ、直近の2年は共に1ケタ台に縮小しているのが気がかりです。校長先生が交代した時期とも重なっていて(たまたまかもしれませんが)、今後縮小してしまうのか個人的に非常に気になっています。
開智日本橋
45名(総合格者数91名)
2024年の合格大学:
【リサーチ系】UQ(au)[5] / UBC(ca) / KU Leuven(be) / Monash(au)[2] / USYD(au)[3] / ANU(au) / UQ(au)[2]
【リベラルアーツ系】
こちらも女子校から共学化し、開智学園の下で2015年から開智日本橋として再スタートした学校です。2018年から完全中高一貫校化しIBコースが設置、2022年入学生からは全コースがIBコースになったとのことです。
開智日本橋としての第一期卒業生が出た2021年の7人を皮切りに、徐々に海外大の合格者が増えてきているようです。現時点ではオーストラリアやカナダがほとんどで、この先どう展開していくかは注目でしょう。
海城
37名(総合格者数53名)
2024年の合格大学:
【リサーチ系】MIT / Columbia / UW[2] / UCSD[3] / UIUC / UC Irvine
【リベラルアーツ系】
男子校で開成を追っているイメージなのが海城かと思います。2018〜20年は1名でしたが、2021年から複数の合格者を出しはじめ継続されています。グローバル部(部活ではなく部署)による支援や、2023年にIB教育の第一人者とされる校長先生に代わったこともあり、この先どう進んでいくのかは注目かと思います。
洗足学園
28名(総合格者数72名)
2024年の合格大学:
【リサーチ系】UCL(uk) / Edin(uk) / Kings(uk)[2] / Manchester(uk) / Bristol(uk)
【リベラルアーツ系】Minerva / Grinnell
女子校で唯一ランクインしたのが洗足学園です。ここ20年ほどで大躍進した学校のひとつとして挙げられます。東大合格者の増加も話題ですが、確認できた範囲で直近8年は海外大学へも毎年輩出し続けています。
集計データほか
集計データ一覧
集計データを一覧で掲載します。適当に拡大しながらご覧ください。
![](https://juken-log.net/wp-content/uploads/2024/06/univ-overseas-table.png)
“海外名門校”へ1人以上の実績が確認できた学校のみ表示しています
*武蔵は進学者数のみのデータです
上位は国際系と言われる共学校が多いですが、全体で見ると女子校も多い印象があります。上位校のような爆発的な増加はないですが、海外志向の高い子は一定数いるのかなという気がします。
その他注目校
上位10校には入らなかったものの、個人的に注目している学校をいくつか挙げます。
武蔵(11名):武蔵独自の海外直接進学奨学金があるなど、学校としてバックアップする体制があります。武蔵は進学者数しか公開してくれないのでデータが不足していて、本来の集計値はもう少し多い可能性があります(進学先は合格先の中で一番上位の学校を選んでいる可能性が高いので、名門校の集計にどの程度影響するかはわかりませんが)。特に海外大学だと合格先の大学名も知りたいのはあるので、そろそろこだわりを捨てて全公開してくれないかと個人的に願っています。
都立小石川中教(14名):公立中高一貫校トップとされる小石川も、数は少ないながら毎年合格者を出しています。卒業生の母集団が小さいのもあって大きく人数が増えるとも思えませんが、東京都教育委員会が推進するGE-NET20の指定校でもあるので、学校からのバックアップもあって一定の進学実績は残していくのではと考えられます。
かえつ有明(13名):2006年に女子校から共学化し校名変更、市ヶ谷から有明へとキャンパス移転をしました。広尾学園と同時期に改革した学校としては、実績・難易度ともやや水を開けられた感は否めませんが、この数年は海外大学への合格実績を着実に増やしてきていて、この流れが継続していくのか要注目かなと思います。
都立・県立高校
高校受験で入る学校はどうなのか、ということで、一都三県の都立・県立上位校に絞ってですが調査した結果が次の通りです。
![](https://juken-log.net/wp-content/uploads/2024/06/univ-overseas-public.png)
都立国際が圧倒的で、IBコースもある進学指導推進校ということで、高校受験から海外大学を目指すならとりあえず都立国際が王道なんだろうという感じです。入試も英語のみ独自作成問題ということで、入学時からそれなりの英語力が求められるということだと想像します。
あとは東大実績も多い日比谷・県立浦和・戸山あたりからも、一部海外大学へ行く流れがあるようです。日比谷・戸山については、小石川のところでも書いた東京都教育委員会が推進するGE-NET20の指定校となっているので、学校からのバックアップは考えられると思います。
感想
最後に感想だけ書いておきます。
2年前から集計を始めたのですが、そのときと比べて上位の入れ替わりが起こっています。以下にリンクを貼っておくので見比べていただきたいですが、ざっくり言うと名門校から新興校への入れ替わり、言い換えると、いわゆる国際系と言われる学校が大きく伸ばしているのが直近の状況になります。
いままでは国際系とされる学校も、教育内容はともかく進学先としては国内が主だったと思いますが、本格的に海外大学への進学を増やし始めたというのがここ数年の動きとなります。その意味では転換点に差し掛かってきたのかもしれないと感じます。
2・3年前だと全体の人数がそれほど多くなかったのもあって、開成のような国内でも進学実績の高い学校が上位にカウントされる感じでした。男子校だと開成・海城・聖光学院・武蔵あたり、女子校だと洗足学園・豊島岡女子・東洋英和などは、今でも毎年輩出しています。ただ、国際系とされる学校が本格的に人数を増やし始めたことで、これらの学校も相対的に少なく見えるようになってきたというのが現状かと思います。
今年上位に位置付けられた学校は、一部を除きIBコースが設置されているところが多く、その目的からしても、まあ自然な動きと考えらるでしょう。今後は(既にあるのかもしれませんが)最初から海外大学を目指して英語も準備し、IBコースのある中高へ進むというルートも意識されてきそうです。
多様な進学先を考えられるというのは望ましい方向だと思いますし、優秀な子が海外に出て日本を見つめ直すというのも素晴らしいことだと思うので、基本的には歓迎すべき流れじゃないかと個人的には思っています。
一方で、中学受験や小学校段階での英語準備が必須になることで、今以上に進学準備の低年齢化が進むことや、早くから子供の進路の方向性が決まってしまう可能性があるというのは懸念点でもあるかなと思います。
選択肢が増えるのは喜ばしいと思う一方、なかなか子育ての難しい時代になったなと思うのは私だけではないのではないでしょうか。
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