芝国際の2023年入試で何が起きたのか?

芝国際中学校・高等学校 入試データの分析
出典:芝国際中学校・高等学校HP

今年2023年の中学入試で、話題沸騰というか炎上騒ぎのようになってしまった芝国際について話題にします。市進の中学受験情報ナビにて結果情報が公開されたので、データを踏まえて考察したいと思います。

ちなみに、この学校への入学を決めている生徒も多数いる中で、学校をディスることを意図しているわけではないということだけは予めお伝えしておきます。

できるだけ客観的に見られるよう表現に気を付けますが、そうは言っても主観は入ってしまうと思うのでその点は割り引いてください。

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騒動になっているポイント

私自身もこの学校については以下の過去記事で取り上げ個人的に注目もしてきましたし、実際この記事に対するアクセスがこのサイトでアクセストップを取るほど、今年は注目を集めていたと思います。

直前期にも次の記事をアップしています。


これらの記事の中でも、入試制度に対してちょっと皮肉っぽい表現をしていたりしましたが、とはいえ最近ではよくあるものなので、まさかこんな騒動にまで発展することになるとは全く想像していませんでした。

とりあえず今騒動になっているポイントについてまとめると以下の4点かと思います。

  1. 合格発表が遅れ日付を越えてしまった
  2. 算数で出題ミスがあった
  3. これから受験する人と合格手続の受付が横並びで配慮がない
  4. 合格者数の絞り込みで超高倍率になった

それぞれ簡単に内容を整理します。

1. 合格発表が遅れ日付を越えてしまった

2月1日入試の合格発表を当日の23:00に予定していたのが、当日中に間に合わず0時を越えてしまった(0時半や1時くらいという噂)というものです。

受験事情に詳しくない方からすれば大騒ぎする理由がわからないかと思いますが、これは受験生にかなり大きな影響があります。

芝国際もそうですが、今どきの中学入試では(一部の伝統校を除き)一つの学校で複数回試験を実施するのが当たり前となっていて、当日中の合格発表、そして試験前日24時までの出願受け付け、というのがある意味でスタンダードになりつつあります。
つまり、その日の受験校の結果を見たあとに次の日の受験校の出願をする、ということが可能になっていて、それを前提とした受験スケジュールを立てるという流れが一般的です。

一校の出願には2〜3万円かかるのが相場なので、経済的な合理性もありますね。23時という遅い時間でも、何とか当日中に合格発表を出しているのはそのためです。

これを今回の話で具体的に当てはめれば、次の流れで考えていた家庭が多かったと考えられます。

・2月1日午前または午後に芝国際を受ける
 →23時の芝国際の合格発表を確認
 →合格ならA校にチャレンジ出願/不合格なら抑えのB校に出願

こんな感じで当日の合否によって次の日の入試プランが変わり、それは2日午前だけでなく午後受験、さらに3日以降にまで影響してくるため、23時の合格発表を待っていた受験生家庭は本当に慌てたと思います。
特に初日となる1日入試はその後の受験プランや精神面への影響が大きいため、これが後々の炎上騒ぎへと繋がっていったと考えられます。

また結果的にではありますが、HP上での謝罪文にある次の表現も火に油を注ぐ結果となってしまったようです。

合格発表と同時に、受験者数のデータと2月1日午前入試の試験問題・模範解答・解説をアップしたかったのですが、叶いませんでした。
本日は23時発表を最優先に試験運営・判定を行っています。

2月1日合格発表についてのお詫び – 芝国際中学校・高等学校

受験生の置かれた状況を考えればまず合否を優先して出してほしいところではあります。

2. 算数で出題ミスがあった

2月2日午後の算数で大問3の問題に不備があることが判明し、(2)(3)を全員正解として対応する旨の発表がありました。

2月2日午後「算数」について(お詫び)- 芝国際中学校・高等学校

問題の不備は、点差が付かなくなり判定の不公平感が出るというのも大きいですが、その問題に引っ掛かって時間をロスしたり、そのせいで精神面が不安定になったりということも考えると影響は大きいです。

ただ一方で、他の騒動がなければここまでクローズアップはされなかっただろうとも思います。
出題ミスで全員正解にした例は検索すればいくらでも出てきますし、具体例は挙げませんが中学入試でも結構あるようです。

別にだからOKなどと言うつもりは毛頭ありませんが、今回のケースは複数の要因が重なったためより大きく扱われる結果になってしまったということは言えると思います。

3. これから受験する人の横で合格証書の受け渡し

これから受験するために並んでいる生徒の横に、合格した生徒への合格証書の受け渡し列が並んでいた、という話です。

実際の状況を見ないままに話だけが大きくなっている感も否めませんが、心情的にはこれは許せないという人も多いんじゃないかと思います。

どの程度受験生から分かる状態になっていたのかとか、他の学校はどうなのかという情報がないので、これについてはあまり言及しないことにします。
ただ、今回この問題がクローズアップされたことで次年度からはどこの学校も配慮するようにはなると思います。

4. 合格者数の絞り込みで超高倍率になった

これについては次の章で深掘りしてみたいと思います。

芝国際中 2023年入試結果データ

学校発表のものではありませんが、市進 中学受験情報ナビの2月11日版で結果情報が更新されていたのでそれを使用します。

一度取り下げられたあと、2月1日分のデータに修正が入って更新されているので信頼して良いのではと思います。なお男女分けすると複雑になるので合算しています。

出典:市進中学受験情報ナビ

合格者数が少ない

パッと見でわかるのが合格者数の少なさです。合格者が一桁の回もあるので、これが実質倍率を引き上げているのは間違いありません。

ただ、よく観察していて気付いたのが、定員に対する割合で見たらそこまで極端な絞り込みをしているわけではない、ということです。

志望度が高いであろう2月1日については2倍(200%)を切っているのでこれは低いと言えますが、後半日程にいくほど定員より多めに合格を出し、2月5日は3倍近くの合格者は出しています。

初回入試としては絞りすぎという意見はありえると思います。ただ、先日取り上げた日本学園の絞り方(定員に対し118%の合格者数)に比べればだいぶましで、割合だけで見ればそこまでおかしな数字とまでは言い切れません。

じゃあ合格者が少なすぎると騒がれている最大の要因はどこにあるのかと犯人探しをすれば、それはそもそもの定員設定にあった、ということでしょう。

全校生徒数がそこまで大きくない学校で高校受験と中学受験とに分け、さらに帰国生募集も行っていることで、2月一般入試の定員枠が85名しかありません。それを4日間に分散させ、さらにⅡ類とⅠ類に分けるなど細分化したために、1つの試験の定員が物凄く少なくなっていました。

私も最初に見たときに記事の中で「ヤバい」という表現をしましたが(参照:芝国際中高がハンパない)、そんな枠へ受験生を集めすぎてしまったために今回の事態が起こった、と考えることができます。

スライド合格分は?

この入試にはスライド合格の仕組みがあります。

これは、Ⅱ類で受験し不合格になっても、Ⅰ類の基準点に達していれば合格をもらえるという仕組みです。ただし、現時点ではスライド合格による合格者の扱いがわかりません。

同様の仕組みを取っている(というかこちらが元祖の)東京都市大付属の例でみると、学校発表の結果資料にはⅡ類での受験者が2つに分けられ、Ⅱ類合格とⅠ類合格(スライド合格)の人数がそれぞれ明記されています。そして、市進のデータにはⅡ類受験者はⅡ類合格者数しか反映されていません(つまりⅠ類にスライド合格した人数は入ってこない)。

都市大付属と同様の表記をしているのなら、Ⅱ類とⅠ類で別々に集計されているので実質倍率は上の表の通り、そしてこれ以外にスライド合格者がいる、ということで一件落着です。

もしスライド合格分が上の数字に含まれるなら?

もしスライド合格分が既にこの数字に含まれていたとしたらどうなるか。まだ事実関係がわからないので、ここは妄想の世界となりますが、図にするとこんな感じです。

Ⅱ類受験者はⅡ類で合否判定したあとⅠ類での合否判定も行います。つまり、Ⅰ類での合格判定にはⅡ類出願で不合格だった人とⅠ類出願の受験者の両方がいることになります。

これを母集団としてⅠ類の実質倍率を計算すると次のようになります。

出典:市進中学受験情報ナビ

これはヤバいですね。最低倍率が12.3倍のものしかありません。

特に、最も受験生を集めている2月1日午後の倍率が24.3倍ということで、抑えどころかほとんど合格しないということになってしまいます。

こうではないよね?とは思いたいです。

事前予想との整合性確認

以前の記事(参照:注目の新設校 芝国際中の出願状況)で、1月28日時点の出願状況と、似た入試形態だった広尾小石川の初回入試のデータを比較して受験者数の予測値を立てるというのをやりました。完全に自己満足ですが答え合わせしてみたいと思います。

左側の黄色部分が前回出していた予測値、右側のピンク色部分が実際の数値です。(予測値の出し方は当該記事をご参照ください)

出典:市進中学受験情報ナビ
*画像タップで拡大します

やっぱり合格者が少ない

出願者数・受験者数の増減はまちまちですが、一貫しているのが合格者数の少なさです。

それによって実質倍率は全ての回で予測値を上回りました。特に2月1日午後回の上振れ度合いが激しいです。

ちなみにⅡ類とⅠ類を合計した受験者総数の予測値がほぼドンピシャ(わずかマイナス1)で当たっているところで、偶然の産物ですが「おぉ〜」と思いました。ただ合格者数が予測の半分以下だったために倍率が倍以上になってしまったところを見ると色んな意味でガックリきますけど。

広尾小石川との比較で見ると、合格者の出し方の違いによる印象の違いはありますね。広尾小石川は2月1日の午前・午後でそれなりの数の合格者を出しているので、2〜3倍など現実感のある倍率に落ち着いています。

後半日程で倍率が跳ね上がるというのは他校でもよくあることなので、高倍率ではありますが世間的にはまだ許容範囲であると認識されていたかもしれません。それ対し今回の芝国際はやはり倍率が高すぎると思います。

思ったこと

以上が、一応事実ベースでのまとめと多少の考察のお届けでした。最後、ここからは完全な私見を書いていきます。

色んなことが複合的に起きたこと、またそれに対する学校のコミュニケーションが不十分なことなどから大きな騒ぎに発展してしまった感がある今回の芝国際入試ですが、考えれば考えるほど、問題の核心は入試制度にあるんじゃないかと私は思います。

色々取り沙汰されていますが、結局は倍率が高すぎて不合格をくらった人が多すぎる(不満の根本である)というのが一番の根っこにあると思います。

細切れ入試は見直してほしい

新設校を中心に、

  • 入試日程を細かく分割
  • コース分けしてさらに分割
  • 午後入試

というのがひとつのトレンドになっていると思います。

上で見た広尾小石川もそうですし、三田国際、開智日本橋、サレジアン国際、東京都市大等々力なども頭に浮かびます(ほかにもありますが改革した共学校に多いです)。

おそらくこの流れは広尾学園や東京都市大付属の成功体験からきている流れだと思いますが、徐々にエスカレートしている感があります。

定員が5人や10人で、合格者が1ケタしか出ないこともあるような入試は(私は)恐くて手を出せません。たまたま成績上位者が数人いただけで不合格になってしまうような不安定な試験は、選抜試験としての信用度に疑問を持ちます。偏差値もあてにならないのでギャンブル要素が強いと感じます。

ここについては今回の騒動をきっかけに、中学受験全体として見直しが入ることを切に願います。

学校改革はトップの力ではない

色々叩かれてしまった芝国際ですが、入学予定の生徒さんはもちろんですが現場の先生方を考えても私は叩く気にはなれません。試験の回数分だけ問題を作成し、試験当日の短時間でこれだけの数の採点をし、複雑な合否判定基準を通して合格者を当日中に発表するというのは、相当な労力だと思います。

特にこの試験に関しては、スライド合格や1科目・2科目入試、適性検査、特色入試まで、今考えられる要素をてんこ盛りしたような複雑な入試で、現場の負担は相当なものだったのではと想像します。

以前の記事(参照:芝国際中高がハンパない)でも紹介した通り、開校準備室メンバーは華々しい肩書きを持った方が多く、入試制度を見ると都市大付属と広尾小石川の校長を歴任された準備室長の影響が色濃く出ていると感じていました。

そのノウハウを元にした入試であるとは考えられますが、ただ今回のドタバタを見る限り、制度自体は持って来ることができても、それを運営するノウハウは校長レベルでは持っておらず、結局は現場の力で作り上げるしかないということなんだろうという風に見えます。

それは入試制度だけではなく学校運営のすべてに当てはまると思うので、あの学校のトップだったとか、ここで改革をした人らしい、というような、特定の人の肩書きが先行するタイプの話は割り引いて見た方がいいんじゃないかなと思います。

トップの掲げるビジョンは重要ですが、たとえ立派なビジョンがあっても現場が付いてこなければ絵に描いた餅にしかならず、その中身を作っていくのは先生であり生徒(と保護者)であるという視点は持っておきたいです。

学校ができるのはこれから

誤解しないでいただきたいのは、芝国際は掛け声だけで中身がないとかそういうことを言っているわけではないです。

そもそもまだ始まっていない学校なので、作り上げていくのはこれからのはず、そういう意味で、学校について評価をするのはまだまだ先の話でしょう。いまは外枠が出来上がっただけで中身ができてくるのはこれからです。

校風はこれから入学する生徒と先生で作り上げ、それが芝国際という学校をかたち作っていくことになる、生徒の立場で見ればそういう経験をできるチャンスはそうそうないので、自ら選んだ学校に誇りを持って頑張ってほしいと思います。

世間的には何となく逆風が吹きそうな予感がしますが、跳ね除けて飛躍してほしいですね。

ちなみに生徒と保護者が当事者意識を持つことが学校運営のカギというのは前麹町中・現横浜創英の工藤校長の言葉ですが、話がずれるし長くなるので別の機会に回したいと思います。

これから学校選びをする立場で考えたとき、以前の記事(参照:伝統校と新興校どっちを選ぶという話)で紹介したおおたとしまささんの書かれていた言葉が頭に浮かびました。

一方で、自分が先駆者となって新しい学校文化をつくっていくんだという気概で新興校に入るなら、それはそれで、十分に意味あることだと思います。新しい学校でしか経験できないこともあるはずです。
学校は、ただのハコではありません。時とともに成長する生命体のようなものなのです。

AERAdot. 「伝統校vs新興校」中学受験でどっちを選ぶのが正解?専門家の答えは

特にこういう新興校を選ぶ場合は、学校が掲げているビジョンに共感できるかどうか、そしてそれを一緒に実現したいと思えるかどうかが必要な構えなのではと感じました。

今回の騒動を受け、何となく新興校から伝統校への回帰という大きな流れができそうな気がしますが、それはそれで一時のブームだと認識して飲み込まれないようにしたいものです。

大事なのは我が子にどう育ってほしいのか、それにはどういう環境がベターだと考えるのか、なのかなと思います。

こう言っては何ですがどうせ答えのない問題なので、他人のせいにしないよう自分の頭で考え行動することが最重要ではないか、そんなことを今回の件で考えました。

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