高校授業料実質無償化の中学受験への影響を考える

高校無償化の影響 受験ニュース

ここ数日、この話題が席巻していますね。東京都が私立を含めた高校授業料の実質無料化に踏み切るという話です。現在も助成の制度はありますが、910万円の所得制限を撤廃し全員が対象になるというのが基本的な内容です。東京都のWebサイトでの公式発表はまだで、小池都知事が都議会の所信表明と記者団の取材による報道のようです。

現時点ではNHKが一番まとまっている気がするのでリンクしておきます。

小池都知事 高校授業料実質無償化 来年度から所得制限撤廃調整 | NHK
【NHK】東京都の小池知事は、高校の授業料を実質的に無償化するため、現在、設けられている支援の所得制限を来年度から撤廃する方向で調…

具体的な助成額は次の通りです。

  • 都立高校:11万8800円(授業料全額に相当)
  • 私立高校:47万5000円(平均授業料に相当)

私立高校に関しては学校ごとに授業料が違うので、平均額を助成するとのことです。ということで実質無償化という表現になっています。

ちなみに大阪府はもう一歩踏み込んでいて、来年から段階的にですが授業料金額に関わらず完全無償化になるようです。

令和6年度以降の私立高校等授業料無償化制度の改正(案)について
大阪府では、大阪の全ての子どもたちを対象に、所得や世帯の子どもの人数に制限なく、自らの可能性を追求できる社会の実現と 子育て世帯の教育費負担を軽減し、子育てしやすいまち・大阪の実

この辺り、どう見ても大阪府が動き出したあとに東京都が後追いした感じなんですが、話題性・ニュース性というところで東京都(というか小池都知事)に持っていかれた感があります。(さすがだなと思いますね、岸田首相も見習った方が、、、ry)

まあそれはともかくとして、影響力のある自治体が踏み出してくれたことはとても良いことだと個人的に思います。他の県や国も動き出してくれることを願います。

所得制限の有無や私立が入ることについて賛否両論あるようですが、公立や私立など関係なく無償で子供に教育を受けさせることができる国にするというのが目指すべきところじゃないですかね。私立は金持ちが行くところとかいう概念はもうやめて、金銭面で公立や私立を選ぶのではなく、理念や教育環境を見てフラットに選ぶようになる方が健全だと思います。

中学受験への影響を考えてみる

教育無償化という文脈で個人的には大賛成な今回の話なのですが、中学受験への影響はどうなのか考えてみます。

1. 中学受験生は増える?

高校分がタダならあとは中学3年分でいいじゃん、と思って飛びつく家庭は一定数いるとは思います。ただ実際は、授業料以外に入学金や施設設備費など諸々合わせると中高6年間で大体600万円かかることになっていて、そのうちの150万円分の補助ということなので、費用面を理由に見合わせていた家庭が本当に踏み出せるかはわかりません。

そもそも中学受験の塾代に200〜300万円かかる時点でハードルは高く、塾業界が期待するほど増えるかといえば微妙な気がします(期待しているのか知りませんが)。中学受験をしない意思決定をしているのは学費だけが理由ではないでしょうし。

2. 公立中高一貫校には逆風?

公立中高一貫校受検を選ぶ家庭の理由のひとつに学費が安いというのも当然あるので影響ありそうですが、影響が大きいのは学校選びというより受験勉強の方かなと思います。公立とはいえ受検はあり、対策のために通塾するのも当たり前になっているので、その時点で教育費はかけられる家庭ということになります。

勉強する側の視点で見たとき、最初から適性検査型の勉強をしてしまうと私立向けに潰しが効かない一方で、私立型で勉強したあとに適性検査型へ移行、もしくは併願する方は比較的やりやすかったりします。私立と公立をある程度フラットに見比べるようになり、ここに気付き出す家庭が増えると、公立中高一貫校に照準を当てた塾が逆風を受ける気がします(逆風を跳ね返すだけの受験者数増があれば別ですが)。

公立中高一貫校自体は、まあ多少倍率は下がるかもしれませんが、学校自体の魅力が下がるとも思えないので、今の国立校並みの受験生は確保するのではないでしょうか。

3. 周辺3県に影響は出るか?

個人的に一番気になるのが、埼玉・千葉・神奈川の学校への影響ですね。都内から通うなら補助は受けられるらしいので影響ないかもしれませんが、通う学校に合わせて近くに引っ越す例も聞いてはいるので(特に幕張近辺とか横浜山手とか)、そういう選択は取りづらくなります。まあそこまで多い例ではない気もしますが、もしこれがあれば合格者の手続き率に影響が出てくるだろうと思われるので、ちょっとウォッチしてみたいです。

逆に周辺3県に住む人からするとズルいと思いますよね。それで都内の学校を受験し引っ越すことを検討する家庭があるのか、もしくは自分だけ学費を払っているのは悔しいので都内の学校を受験するのを止めるのか、さすがにそんな小さなところにはこだわらないのかなど、考え出したらキリがないし検証のしようもないですが、心中穏やかではないですね。

まあ周辺自治体の方もなんらか追随手段を考えなければいけなくなるでしょうし、なってほしいですが、仮にこのまま放置されれば、受験というよりも不動産価格の方に影響が出てくる気はします。例えば子供2人を持つ家庭が引っ越し先を考えたとき、東京都なら300万円分のゲタをはいた値段で検討ができることになるでしょう。

その他期待したい影響

公立と私立の費用格差がなくなると、費用面での公立高校の優位性がなくなります。となれば選ぶ側はよりフラットに学校選択ができるようになるので、教育内容や教育環境での競争に変わっていくことができるでしょう。まあ現実的には授業料以外にもかかる費用はあるし、受験費用の問題もあるのでそんな綺麗にはいかないでしょうが、良い方向へと変わっていってくれることを期待したいです。何ならもう国公立校の試験日も自由化して、公平な環境で健全な競争をしてほしいと思います。

大学無償化?

ついでに大学無償化の話も出ているので触れてみます。最近出ている話は2つあります。

  • 公立大学の授業料無償化
  • 多子世帯の大学費用無償化(国の制度案)

1点目は、大阪公立大学・兵庫県立大学での授業料無償化(所得制限なし)と、東京都立大学の授業料無償化拡大(所得制限910万円まで)という話です。ここでも大阪府が先鞭をつけ東京都が後追いしている構図が垣間見えますが、所得制限のあり・なしはそもそも思想から変わってくるところなので、大阪・兵庫が本当の意味で無償化と言えるでしょう。

で問題は2点目です。まだ法案にもなっていないので流動的ですが、こういう話です。

政府は、3人以上の子どもがいる多子世帯を対象に、2025年度から子どもの大学授業料などを無償化する方針を固めた。所得制限は設けない。「異次元の少子化対策」の一つとして、月内に決定する「こども未来戦略」に盛り込む。

時事通信

子供が3人以上の世帯は全て無償という、別の意味で異次元の、だいぶナナメな政策を打ち出してきました。これでみんな3人以上産むようになって少子化に歯止めがかかるぞ!とでも思っているとすれば、ちょっとお花畑がすぎやしませんかね。子供が大学入るまで20年近く、そんな先の話を出されても、いざ大学進学となった頃には財政難で出せませんなんて可能性も大いにあるし、そもそもそんなに政府は信用されてますかと。

大阪府は、身を切る改革という旗印の元に財政を立て直した上で(財源を確保し)、将来世代、つまり子供に投資するという方向性を打ち出している(分配先を明確にしている)ので納得感があります。しかも時間をかけて議論を積み重ねた上で今回の政策があるというのがこちらのサイトを見ていくとわかります。

一方の政府の方は昨日今日思いついたくらいの深さしか感じません。そもそもビジョンがないので、できるだけ対象者を少なくして財源は絞りつつ、耳障りのいいワードだけは出したいという裏側が透けて見えてしまっていて、そりゃ政治不信にもなるわと思います。

考えても文句しか出てこないのでこれ以上掘るのはやめますが、ビジョンのない政策は害悪でしかないので即刻やめてほしいです。

まとめ

だいぶ主観の激しい内容になってしまいました。汗

まあでもこの辺りの動きを見ている限り、大阪に先頭切って走ってもらって、おいしいところを東京都がいただき、それを国が追認(追随)して全国展開するという動きが一番うまくいくような気がします。きちんとビジョンを持った人に政策を作ってもらって、そうでない人は別に真似するだけでいいんで、変に対抗したりして余計なことをやるのはやめにしてもらいたいです。

高校無償化に関して言えば、大阪府や東京都だけで行うのは色々と問題だと思うので、これは全国でやってほしいです。ただ、浮いた分のお金が結局塾に入るだけで受験競争が過熱するとかいうのは面白くない展開なので、そうならないことを願いますが。。。

コメント