【書評】SAPIXだから知っている 頭のいい子が家でやっていること

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たぶん中学受験界隈では今年のベストセラーになっている本だと思いますが、Amazonプライムの読み放題対象になっていたので読んでみました。電子書籍版ですが、Amazonプライム会員であればタダで読めるので(Kindle UnlimitedでなくてOK)、興味があれば対象から消えてしまう前に読むことをおすすめします。

SAPIXの本ではない

まず大前提の題名ところは触れざるを得ません。タイトルでも表紙でも”SAPIX”を全面に押し出しているので、SAPIXのカリキュラムとか勉強の仕方とか、難関校に受かるためにこうすべし、みたいな内容を想像する人も結構いるような気がしますが、そういう期待で読むと肩透かしを食うことになります。

内容は中学受験全般における親の心構えみたいな話で、ほぼSAPIXとは関係ありません。やたらと「SAPIX式」とか「SAPIX小学部では」のような書き方が散見されますが、内容は一般論しかありませんでした。

知らないで読めば「SAPIXに入室すればこういうノウハウが手に入るのね」と思うのかもしれませんが、そうではなくどちらかと言えば、これからSAPIXに入るご家庭に対して、こう考えて子供と接してくださいねと諭している本という方が近いと思います。

題材をSAPIXにすることで認知度が上がり、結果バカ売れしているという意味では著者の狙った通りでしょうし、その意味でさすがSAPIXだと感心しますが、読むときは「SAPIXでは」の部分は「中学受験では」もしくは「中学受験で成功したご家庭では」と置き換えて読めば良いと思います。

と、いきなり否定的に見えるような書き方をしてしまいましたが、別に全否定するつもりもないし、良い部分は積極的に取り入れていけばいいと思うので、ざっと気になる部分だけ挙げていきます。

第1章 自発的に学び続ける「頭のいい子」

先行き不透明なこれからの時代は学び続ける姿勢が大事で、「頭のいい子」とは「学びに関心を持ち、学び続けられる子」であると著者は定義しています。そのために好奇心や探究心を育てる必要がある、そしてそれは親子の会話によって育まれるものだ、という話です。

具体的には、子供が元々持っている好奇心を失わせないように「あれはなに?」と聞かれたら「調べてみよう」と返すとか、逆に毎日のやり取りの中で「なんで?」と問いを挟んでいくことによって、子どもと一緒に疑問に向き合うことが大事だと説いています。

よく聞く話だし、これだけで理想とされる子が育てられるとも思えませんが、必要な構えではあると思うので心に留めておいて損はないでしょう。

それ以外に細分化して次のようなポイントが挙げられています。

  • 結果でなく過程を大事にする
  • 「わからない」と言える雰囲気づくりをする
  • ノートを取ることで頭を整理する
  • 苦手ではなく得意に目を向け自信を育む
  • 子どもが集中できる環境を作る

これらも当たり前といえば当たり前の話ですが、日々子どもと向き合っていると忘れがちなので、たまに振り返って確認してみるのもいいかと思います。

第2〜5章 科目別のおすすめ習慣

第2章から第5章は、科目別に子育てのポイントが並べられています。科目別になっていますが、受験勉強に直結する話というよりは、準備段階の低学年向けの心構えと考えた方がしっくりきます。まあ心構えとしては大事な話だと思うので念頭には置いておきたいですが、理想論やあるべき論に走りすぎているというか、これを受験勉強中の子どもに当てはめるのはちょっと無理があり、やってみたけど上手くいかずに自分を責める、みたいなことになってもおかしくないんじゃないかなと感じます。

例えば我が家の兄に当てはめて考えると「作文が苦手な子にどうアドバイスする?」というのがあります。

子どもが作文に書こうと思っていることを話しているときに、親がインタビュアーになって、「そのとき、どう思ったの?」「そのあと、どうしたの?」など、質問を挟みます。聞かれることで、子どもは思い起こしたり情報を整理したりしていきます。聞き手がいることで、内容が膨らんでいくのです。その膨らんだ内容を文章にすれば、作文になっていきます。

まあ何となく納得感はありますが、実際はこの質問に回答ができて頭の中が整理できる時点で、苦手というよりもう一歩というところにいる子だと思います。本当に苦手な子は(我が家の兄がそうでしたが)、聞いたところでそもそも回答が返ってきません。手を替え品を替え質問をしますが、しまいには親が自ら答えを言っているような質問になるのがオチです。(普段の会話からこういう状態なので、子供の資質もあるかもしれませんが幼少期から積み重ねの賜物?だと思ってます)

我が家は型を教えることで一応書けるようにはなりましたが(でもそれしか使えない)、それはそれとして、要するにここで書かれているやり方が全てではないというか、厳しく言えば、現実が見えていない、絵に描いた餅のように感じます。

まあそれはちょっと言い過ぎかもしれませんが、既にできている子以外でどのくらい当てはまる子がいるのか、というのは感じますね。結果的にできていた子を基準に話を作っているように見え、できない子が同じことをしたらできるようになるというのとはまた違うのではと思います。

SAPIXに入る前の低学年向けと感じるのはその辺りです。

第6章 中学受験との向き合い方

本書のキモはこの章だろうなと思います。著者はSAPIXの中の人ではなくSAPIXの名前を借りてご自身の考えを伝えていますが、本書に協力しているSAPIXとしてはこれから中学受験へ向かう家庭を取り込みたいわけで、その数を増やすことが本書の目的でもあるでしょう。

とりあえず乗っかってみます。

今の中学受験は、暗記だけでは突破できない
<中略>
お2人が口をそろえて言うのは、「現在の中学受験は、知識偏重では太刀打ちできません。知識を応用したり活用したりする力が欠かせないのです」ということです。

これは受験=詰め込み教育というイメージに対するアンチテーゼですね。本書の中で私が最も評価したいところで、売れている本で認知を上げてもらうのは悪くないと思います(日本の将来のために優秀な子が増えてほしいという意味で)。実際、難関校になる程、知識の上に考える力が必要な問題になっているのが今の中学受験なので、ここは世間のイメージとズレているところかもしれません。

ちなみにこの世間的なイメージで、公立中高一貫校の受検なら良いと思って参入する家庭も少なくないと思いますが(私もそのひとりでした)、必ずしも私立入試が知識詰め込み型で、公立適性検査が思考力型とは言えないことが、見ていく中でわかりました。どちらも型を覚える要素はあるし思考力要素もある、敢えて言えば競技が違う、というところだと思います。

保護者が勉強を教えてあげるべき?
中学受験をするにあたって、お父さんやお母さんがじっくり子どもの勉強をみてあげなければいけないと思い込んでいるケースは少なくありません。しかし、それは必ずしも正しい姿勢とはいえません。

これをSAPIX監修の本で言いますかぁ(笑)、という感じです。まあ理想は塾と自力勉強だけで突破することでしょうし、そんな超デキる子も一部はいるんでしょうけどね。

まとめ

結果的にやっぱりネガティブ要素の多い書評になってしまいましたが、これは一度経験して知識があるためかもしれません。まっさらな状態で読めば発見も多いでしょうし、何よりAmazonプライム会員であれば無料なので、興味があれば一度読んでみてはいかがでしょうか。分量も割とスカスカなので、2時間もあれば読み終えられると思います。

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